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高校生の方へ「歯学部」進学のススメ

私が歯科大学に入った40年くらい前は、歯科大学や歯学部に入学すれば歯科医師になれるのが、ほぼ決まっていました。余程出席日数が足りないか勉強を全くしない様な人は、留年をしたり、国家試験に落ちる人も少しは居ました。
ただ、国家試験も春と秋の2回あり、たいていは春に落ちても秋に受ければ何とかなるような時代でした。しかし現在と違って、どこの歯学部の入試倍率も4〜5倍はありましたし、国立の東京医科歯科大学においては、入学偏差値が医学部より歯学部の方が高い年が数年ありました。これは本当です。
現在はどうでしょうか?

歯学部の入学難易度は非常に下がってしまいました。
しかも、歯科大学や歯学部に入っても歯科医師になれる保証はないと言ってよいでしょう。私立大学の場合は6年間の修業年限で卒業して国家試験を受けて歯科医師になる、つまりストレートの学生の割合が3割程度の大学もかなり有ります。ですから、多くの学生が留年を経験しています。更に卒業試験という最後の関門も過酷になっています。それは学生に卒業資格を与えなければ国家試験を受けることが出来ない、つまり国家試験に落ちそうな学生は、大学が学生を卒業をさせないのです。
そして、晴れて卒業が出来ても国家試験で不合格を経験してしまう人が新卒でも3割。国立大学でも2割程度居ます。
それにしても厳しい世界になってしまいました。
私どもの法人では毎年、研修医を受け入れていますので、学生時代の過酷ぶりはここ近年更に酷くなっている様に聞きます。
なぜそうなったのでしょうか?
理由は2つ。


1,歯科医師過剰時代の政策のままに国家試験を難しくしています。それに伴って歯科大学や歯学部では、学生に対して予備校の様に知識を詰めこむ教育をせざるを得なくなっています。そうしないと国家試験の合格率が下がってしまい大学の存在そのものが危うくなってきてしまうからです。よって大学では進級や卒業が難しくなっています。通常の国家試験でしたら、全問題の何割が出来たら合格だと思うかもしれませんが、歯科医師国家試験は点数の上位から何人が合格、という具合に合格者数を決めているのです。

2,私立大学の歯学部に進学した場合、2千万ほどの学費がかかってしまいます。しかも歯科医師になるには、上記の様な過酷な状況なのです。さらに歯科医師になったとしても公には年収はそれほど高くないと巷ではいわれています。つまり、費用対効果が悪いので歯学部に行こうと思う学生が少なくなってしまったのです。
それでは実際には歯科医師は過剰なのでしょうか?歯科医院はコンビニより多いと散々言われていますが、それはそうです。コンビニより歯科医院の方が先に存在していますから。
ただ、厚生労働省の方も歯科医師数はあと2年程度でピークを迎えると言っていました。歯科医師の年齢分布が、普通の正規分布の曲線を描いていない事が問題なのです。さらに、今から7年前の厚生労働省で開催された歯科医師の資質向上に関する検討会及び歯科医師の受給問題に関するワーキンググループの論議では、「今後、必要歯科医師数(需要)と供給歯科医師数(供給)のギャップは相対的に縮小し、需要が供給を上回ると推計」との論議もされ文章化されています。

現在の開業歯科医師の平均年齢は60歳を超えています。そこにピークがあるのです。つまり、グラフのピークが右にずれているのです。そして、そのグラフは今後右にズレるのです。そのため、あと10年したらゴソッと歯科医師は減ると考えられます。厚生労働省発表の令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師の概況によると60歳以上の歯科医師は33882人、逆に39歳以下の歯科医師は17669人となっています。この数を見れば明らかに減ります。

実際問題、全国の歯科医院数は2017年8月の68963件をピークに2023年3月では1532件減りました。総数からすると僅かな減少ですが、減少に転じているのです。ちなみに神奈川県は2018年5月に5017件をピークに2023年3月までに66件減少しています。

現在、歯科疾患も減っているので、ちょうどよいと思われるかもしれません。確かに、歯を削って治す様な治療は減ります。しかし、逆に口の中をきれいに保つ様な仕事は増えると予想されています。それが厚生労働省が進める地域包括ケアシステムです。これは介護が必要になった高齢者を地域が協力して居宅で面倒を見ようという政策です。この中に歯科医師も含まれています。この様な政策を進めるために、歯科医院側にも変革が迫られています。

現在の日本の歯科医院の典型的なパターンは歯科医師1人に対して、歯科衛生士が1人。その他に歯科助手兼受付が2人程度。そして治療椅子は3台。この形態が8割程度。そして歯科医師、歯科衛生士が大勢というような、私どもの様な医療法人形態が少ないながら存在しています。

国としては、前出の地域包括ケアに歯科医療も参加して欲しいために、歯科医院の大型化を模索している様です。それは、訪問診療が出来るような歯科医院に対しては健康保険点数のインセンティブがあることからも明らかです。

このことから、今後はある程度の大型歯科医院が地域の中核として存在・継続してゆくことは間違いないと思われます。

そして、実際には一足先に、大型歯科医院による新卒歯科医師の争奪戦が起こっているのです。歯科医師として、以前は3千人以上が毎年新規に世の中に誕生していましたが、現在は前述の様に2千人程度に抑えられています。そんな状況下で以前は存在していなかった大型法人が、歯科医師の採用活動を進めているのです。

その結果、新卒の歯科医師に関しては、スキルや経験がそれほど無いにもかかわらず、高給を条件に新卒者を取り合うような事になって来ています。ですから、巷で言われるような「費用対効果が低い」というようなことは、現場の状況からすれば間違いです。実際の給与額を述べるのは差し控えますが、有名大学他学部の新卒の2倍以上の給与は当たり前です。

それでは、医師はどうでしょうか?10年前の国家試験に比べて、毎年千5百人以上多い9千人程度が合格しています。
これだけ医師国家試験合格者を輩出しているのは、歯科医師過剰になった頃を思い出さざるを得ません。

しかも、国は病院の統廃合を進めて病床数を減少させています。勤務医として働く場所が少なく無くなってくるのです。そうすると、将来的には開業医が今以上に増えるのは当たり前です。そのうえ少子化で国民の数は減少します。そんな状況下で、前述の様に医科の開業医は逆に爆増が予測できるのですが、歯科開業医は10年前から横這いでも近い将来急激に減少するのは目に見えているのです。

実際に、令和3年で医科の一般診療所は10万を超えています。これが今後益々増えるのです。歯科の様に単科ではないものの、競争激化は当然だといえます。更に医科の場合、特定の診療科を除いては健康保険の診療がメインになります。この場合、政府の財政に影響されやすくなります。当然、日本国家の財政状況を考えれば、今までのような収益構造は望めないと思います。

そして将来、現在の歯科で起こっているように診療所の淘汰が進むと思われます。

私は、「歯科医師にとって、ある意味、これからは非常に良い時代がやってくる」と考えています。現在高校に通って勉強をしている皆さんが、これから歯学部に入学をすれば、6年間しっかり勉強して卒業するころの国家試験は今より合格者数が多くなると思います。なぜならば、その頃には国としても歯科医師の減少が問題になり、歯科医師国家試験の合格者数を絞ることを緩めているはずだからです。また、国立大学でも殆どが推薦入試が殆どある様な昔では考えらえない入試形態になっており、現在の歯学部の人気の無さを表していると思います。しかし、受験生にチャンスでしょう。入試一発勝負では無いからです。

そして、歯科治療という仕事の性質上、将来AIにとって代わられることも少ないと思われます。

歯学部における学生生活に関しては、敬友会が取材協力した「歯科医師になる(日労研発行)」という書籍に詳しく書いてあります。この本には、実際の歯学部の学生さんや大学の先生方の具体的なお話が収録されていますので、是非ご参考になさってください。

文責 理事長 久保倉 弘孝

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