ケースルクト法根管治療 症例21 難症例
20代 女性
右上の奥歯で咬めないので来院。CBCT(歯科用CT)によると、第一大臼歯は3本の根があるのだが、その先端に全て根尖病変と言う状態であった。何と言っても、この様な症例は、前の歯科医師がどんな歯の削り方をしてあるかは、実際に開けてみないとわからないのだ。場合によっては、歯の内部から外部に穿孔をきたしている場合もある。本症例は、1つの根の先の孔(根尖孔)がどうしても見つからなかった。しかし、スーパー根管治療の方法で根管充填。すると、枝分かれをしている根管の中にきちっと充填された。それにより3か月後には、周囲に骨の再生が見られた。この様な症例は治療をしてみないと分からないのが正直なところだ。そんな状態で費用をかけるより、抜いてインプラントと言う考えもあるが、20代ともなれば、出来る限りの事をすべきだとは思う。この症例のお母さまはそのあたりの事をとても良く理解して頂け、良い結果を得る事ができた。
【かんたん説明】
当たり前ですが、歯は一度削れば、自然に元の状態には戻りません。つまり根管治療は最初の治療が最も大事なのです。この症例は前医がかなり歯の内面を削ってあり、更に歯の削りカスによるのか、根の先の孔である根尖孔をどうしてもみつける事ができませんでした。。しかし幸いな事にスーパー根管治療により枝分かれした根管の中にも充填が出来たことにより治癒した症例。この様な場合、インプラントも選択肢にはなるが、できる限りの事をして自分の歯を残したいものです。
スーパー根管治療 症例22 皮膚面の麻痺が治った症例
40代男性
右顎の頬の部分の感覚がおかしいので来院。診査をしてみると知覚が鈍くなっている状態であった。私たち歯科医師は知覚の麻痺と言うと、外科処置による神経障害を先ず考える。しかし、この患者さんはその様な処置も受けて居なければ、交通事故や打撲もしていない。すると次に考えるのが、悪性腫瘍。一般的に神経麻痺は良性腫瘍では起きにくい。増して、炎症では起きない可能性が高い。しかし、CBCT(歯科用CT)によれば、悪性腫瘍を思わせる所見は無い。ただ、オトガイ孔と言う知覚神経が出てくる孔と左下の第二小臼歯の根の先にある根尖日病変が一致している様に見えた。つまり、考えにくいが、根尖病変が知覚麻痺に関与しているのではないか?そこで、先ずはスーパー根管治療を行った。治療2回。すると速やかに、知覚異常は消失したとの事。こんな事もあるのだと教えてくれた症例。
スーパー根管治療は、根の先の根尖病変は高確率で改善できる。よって知覚麻痺は改善したのだと思う。もしも、通常の側方根管充填では根尖病変の改善はあまり期待できないので、知覚麻痺も改善しなかったと思う。その場合は、口腔外科送りになって抜歯でもされた可能性が高い。
【かんたん説明】
頬のあたりの感覚が鈍くなったので来院されました。通常、歯の中の神経(歯髄)が虫歯等で腐ってしまい、それを放置しておくと、根の先の孔である根尖孔からばい菌が骨の中に出てゆく場合があります。当然、腫れや痛みを生じます。そして根の先の骨を溶かしてしまう場合もあります。これを根尖病変又は、根尖病巣と呼びます。そして、下顎の骨の中に最終的には唇付近の感覚に関係する感覚神経が通るパイプラインの様な構造があります。これを下歯槽神経管と呼びます。この症例はこの根尖病変と下歯槽神経管が近かったのです。ただ、近いからと言って普通は感覚神経が鈍くなったりする事は余りないのです。感覚が麻痺すると言うことは、なにか腫瘍の様な物が出来てしまった場合が多いのです。ただ、この症例はその様な腫瘍の様なものは、CBCT(歯科用CT)によって全く認められなかったので、先ずはスーパー根管治療を行った。すると、数日で感覚が元に戻ったのです。この様な事もあるのだと勉強になりました。
スーパー根管治療 症例23 根の間の骨が再生した症例
10代 女性
他の歯科医院に通っているが、なかなか治らないので転院してきた。
10代で根管治療を受けている症例は、現代では非常に少ない。この症例は、第一大臼歯の根の間(根分岐部)の骨が大きくレントゲンで無くなっている様に見えた症例。通常この場所の透過像は歯が真っ二つで折れている可能性が高い。よって根管治療の適応にならない可能性が高い。しかし、親のたっての願いで、ダメ元でスーパー根管治療を行った。治療回数は1回。
10か月後に来院され、CBCT(歯科用CT)では根分岐部の骨はかなり再生されていた。ただ、その後、来院されず、半年後に来院されたときには、歯根が折れていた。結果的には抜歯となったが、骨が再生されているので、インプラントを行うに良い状態に持って行けたと考える事にした。
【かんたん説明】
私たち歯科医師は、根や周囲の骨の状態はレントゲン写真で判断します。通常、灰色でなければならない部位が黒っぽくなっている場合は、骨が溶けてしまっている場合が多いのです。その原因としては、歯が折れていたりする場合もあります。下顎の奥歯は、人間が足を広げて立っているように根は2本開いて存在します。その又にあたる部分が黒っぽくなると多くはその又の部分で真っ二つに歯が折れている事が多いのです。しかし、マイクロスコープで覗いてみると、折れている線も見えなかったので、スーパー根管治療を行ってみた症例。10ヶ月後に来院された時には、又の部分の骨も完全に再生していました。しかし、その後の予約はキャンセルとなり、半年後に来院された時には目で見ても分かる程度に根が折れてしまっていました。止むなく抜歯とはなりましたが、これだけ再生できていればインプラントはやり易いと思います。
スーパー根管治療 症例24 根管充填をしていない根には病変を形成する
30代 女性
右の上の歯の根元を押すと痛い。CBCT(歯科用CT)を撮影したところ、2本根の根が有る歯なのだが、1本しか根がしっかり充填されていない。治療はスーパー根管治療を行った。治療回数1回。すでに充填をしてあった、根も充填の仕方が良くないために、その根を含めて2本の根管充填をしっかり行った。1年7ヶ月後のCBCTでは骨が完全に再生をしていた。7年経過した現在でも、レントゲン画像を含めて全く問題が無い。
根の中にある管を根管と言うが、完全に無菌化できれば、根の中に充填をする必要は無いと考える。しかし、そんな事は100%無理なのである。だから、しっかりと根の中、特に根の先の孔である根尖孔をしっかり塞いで根管内の細菌を封じ込める必要があるのだ。それが出来ていないと生体はその歯を異物と判断をして、骨の溶解や症状を発信して警告するのである。
【かんたん説明】
レントゲン写真では、硬いものが白く、柔らかいものが黒く写ります。よって、歯は白く映ります。そして骨は歯よりも柔らかいので歯よりは黒く見えます。そして、歯の根は骨に囲まれています。正常な場合、歯の周囲の骨は均一な灰色をしています。しかし根の中にばい菌が入ってしまうと、根の先の骨が無くなってしまう事があります。よってこの場合は黒く映る様になります。今回の症例もこのパターンです。そして歯の根は歯の種類によって1本から4本程度あります。この症例はその歯の根が2本です。しかし、以前に治療をした歯科医師は1本の根だと思って治療をしたのです。通常、根の治療をした場合に、根の中に充填材を詰め込みます。これにはレントゲンに映るような造影剤が含まれていますので、私たち歯科医師はレントゲンを見れば、どのように根の治療がされているのか分かる様になっています。この症例では、明らかに内側の根の治療をしていないのが分かります。治療は外側の根の再治療を含めて、内側の根の治療も行いました。その結果、1年7か月後には、根の先の黒く映っている部分も周囲の色と同じになりました。よって、骨が再生されたのです。
スーパー根管治療 症例25 治療を誤って歯の底に穿孔をきたしていた症例
40代 女性
左上の奥歯の違和感で来院。
他医院で左下の奥歯の根の治療を開始。週に1度通うも一向に終りが見えず、咬めない状態が続いている。この方は当院のパンフレット等を製作してもらっている会社の担当者だったので、相談を受けた。マイクロスコープで根管内を観察すると、歯の内部を誤って削って穴を開けてしまっている状態であった。専門的にはパーフォレーション(穿孔)。恐らく、前医では穿孔をさせてしまったものの、どうして良いのかわからなかったのだと思う。当院では、スーパー根管治療を行った。そして、穿孔部はMTAセメントで閉鎖した。MTAセメントは強度があまり無いので、歯根破切を起こさないか心配だが、治療から3年経過した現在では問題なく咬めている。
【かんたん説明】
歯によって、根の数は大よその傾向があり、また根がある位置もおおまかな傾向があります。ところが、その標準的な歯には当てはまらない歯もあるのです。歯科用の立体レントゲンを撮影しておけば、根は立体的にどこに有るのかがわかります。しかし、その様な装置が無く、大体の見当で治療をしてしまうと、歯の中から外側に向けて孔を開けてしまう場合があります。これを穿孔(パーフォレーション)と呼び、根管治療の失敗の筆頭に上がる様な偶発事項です。この方も全くこの状態でした。マイクロスコープで歯の中を覗いてみると、穿孔が直ぐに観察されました。おかかりの歯科医院ではその事に気が付かないまま、お薬の交換をしていた様です。この様な穿孔した症例の場合は、現在ではMTAセメントと言う穿孔部を穴埋めする材料があります、これを使って穴埋めをして、更にしっかりと根の先まで蓋をする様な根管治療を行いました。それにより症状は全くなくなり、咬めるようになりました。根管治療にはマイクロスコープは必須なのです。肉眼では碌な治療はできません。
スーパー根管治療 症例26 典型的な根尖病変の治癒症例
50代 女性
左上の奥歯が痛い。CBCT(歯科用CT)を撮影すると、第一大臼歯には3つの根があるのだが、その3つ全てに根尖病変を生じていた。レントゲンでは、根の先に円形にくろくぬけた影として見えた。この様な映像は根管治療において根の先に緊密に蓋がされていない場合の典型的映像である。この様な場合は、スーパー根管治療できっちりと治療すれば、しっかり治る事が予想し易い症例。治療後1年7カ月目のレントゲンでは、骨の再生がみられた。そして、10年経過した現在でも、問題は全くない。
【かんたん説明】
奥歯で咬めない。この様な場合、原因は大きく分けて2つあります。①歯の中の神経が死んでしまっている場合、②重度の歯周病。
この方の場合は①でした。歯科用のCTを撮影してみると、痛いと思われる歯の根の先が真っ黒に写っています。神経のある様な歯ではこの様な真っ黒な影は見えません。歯の中の神経が死んでしまう事により根の先の周囲の骨が溶けてしまったのです。特に、この症例の様に、根の先に球形の黒い部分が見える様な場合、K,SRCT法で緊密に根の先の孔を閉鎖すれば、かなりの確率で治ります。この症例はK.SRCTにより完全に治癒し更に10年経過した現在でも問題の無い症例です。最近来院される患者さんには、この様な根の先に影が有るだけで抜歯を勧められたと言う方も多いのです。
スーパー根管治療 症例27 広範囲な骨の欠損も改善した症例
20代 女性
左の奥歯で咬むと痛い。遠方から来院された女性。数年前に金属の詰め物を入れた歯だった様だが、深い虫歯の治療だったのか、歯随(神経)が壊死してしまった症例。下に示したレントゲンは、歯の根の先から股の部分まで広範囲に黒い部分がある。黒い部分とは骨が吸収してしまった部分である。通常、この様な股の部分にまで黒い部分が及ぶと、歯が真っ二つになっている事が多い。しかし、この歯は未だ根管治療前であり、しかも20代の女性なので、咬む力もそれほどではないはずだ。よって、スーパー根管治療を行ってみる事にした。来院回数2回。8ヶ月後のレントゲンでは、股の部分も含めて骨の再生がみられた。下のレントゲン写真はビフォー・アフター写真。アフター写真の歯の中の白い部分が充填材。アーチファクトと言う現症で白い部分は大きく映ってしまっている。こんな大きな充填材は入っていない事を申し添える。
スーパー根管治療 症例28 根管充填が大事な事を示す症例
20代 女性
右下の歯で咬むと痛いので来院。右下の奥歯のレントゲンを見ると、奥から2番目の第一大臼歯の根の先に、シミの様なレントゲン透過像がみられる。これを根尖病変と呼ぶ。4回のスーパー根管治療を行った。1年10ヶ月後のレントゲンによると、シミはほぼ解消。つまり骨が再生された。この術前と術後を比べるとどこが違うのか?それは術前では、根の先まで白い充填材が詰まっていないからだ。つまり空洞が存在しているのだ、これを身体は嫌がった。よって骨の吸収が起こり、痛みとして体に警告を与えた。そして、根の先までピッタリと充填する事により、隙間はなくなり身体は異物反応を解除し、骨の再生をした。根の先までしっかり詰めて、根の先の孔である根尖孔に蓋をする。これがいかに大事かを物語る症例。
スーパー根管治療 症例29 下顎の前歯の症例
40代 男性
下の前歯が痛い。 CBCT(歯科用CT)によると、下顎の前歯の根の先に骨の欠損が認められた。スーパー根管治療を2回行った。1年3ヶ月後のCBCTでは、根の先に骨の再生がみられた。
もしも、この歯の治療が上手くいかなかった場合は抜歯となる。しかし、この部位は骨の幅が極端に薄く、しかも、舌下動脈と言う太い血管が骨の周辺に存在している。つまりインプラントが一番難しい部位である。又、両側の歯をけ削ってブリッジにした場合、下の歯は歯が細いので非常に難しい。よって、根管治療により残せたことはこの患者さんには相当の恩恵があったはずだ。
スーパー根管治療 症例30 下歯槽神経ギリギリの根尖病変の治療
40代 女性
左下の奥で咬むと痛い。CBCT(歯科用CT)によると、左下一番奥の歯の歯随が壊死をして、根の先に根尖病変が生じている。しかもその根尖病変は知覚神経が通過している下歯槽神経管と一致するがごとく存在していた。歯科医師にとって、この様な根管治療は本当に要注意な症例である。根の真下に大きな知覚神経が通っているのである。根の治療に使う、ファイルと言うマチ針の様な器具で知覚神経をつついてしまっただけでも、神経にダメージを与える。つまり感覚の麻痺が起こる。大問題は根管充填なのである。根管充填とは、根の先の孔(根尖孔)にしっかりとコルク栓の様な蓋をする事だ。この蓋の仕方が甘いと、根尖病変は治らないばかりか、症状が続く場合が多い。逆に、このコルク栓を押し出し過ぎると下歯槽管の中に入り込んで、永久的な麻痺を作りかねないのだ。この様な症例の場合、多くは適当な治療をなされて、症状が治まらなくて抜歯に至る事が多い。スーパー根管治療は、充填するガッタパーチャの量をコントロールできるので、神経冠の中に押し込む危険性は低く、しっかりした根尖閉鎖が可能である。ただ術者としては、手に汗握る治療で有る事に変わりない。この症例も1度目の根管治療では、しっかりした閉鎖ができずやり直した。術後の麻痺は全くなく、咬んで痛い症状も1週間で消失した。