- 治療について - 歯根嚢胞は切らなくて治る
歯根嚢胞は切らなくて治る
歯根嚢胞(しこんのうほう)とは
歯根嚢胞は、歯の根の先端にできる嚢胞(膿の袋)です。これは、根管治療を受けた歯に特有の疾患であり、未治療の歯には発生しません。つまり、虫歯などで歯がしみたり痛んだりする段階では、歯根嚢胞は存在しないということです。
発生のメカニズム
歯の神経(歯髄)が虫歯や外傷によって感染すると、根管内に細菌が繁殖します。根管治療では、この感染した歯髄を取り除き、根管内を清掃・消毒します。しかし、根管内に細菌が残存したり、新たに細菌が侵入したりすると、根の先端で炎症が起こり、膿が溜まって嚢胞が形成されます。
歯根嚢胞の特徴
- 無症状の場合が多い: 歯根嚢胞は、初期段階では自覚症状がないことが多く、レントゲン検査で偶然発見されることがあります。
- 症状が現れる場合: 嚢胞が大きくなると、歯茎の腫れ、痛み、違和感、噛み合わせの悪化などの症状が現れることがあります。また、嚢胞が化膿すると、激しい痛みや発熱を伴うことがあります。
- 根管治療を受けた歯にのみ発生: 歯根嚢胞は、根管治療を受けた歯に特有の疾患であり、健康な歯には発生しません。
歯根嚢胞の治療
歯根嚢胞の治療法には、以下のものがあります。
- 歯根端切除術: 歯茎を切開し、嚢胞と感染した根の先端を切除します。日本ではよく行われています。
- 抜歯: かなり安易に行われているのが現状です。
- 根管再治療: 根管内の細菌を徹底的に除去し、再度根管充填を行います。
歯根嚢胞の多くは、過去の根管治療の不備が原因で発生します。レントゲン写真では、歯の根の先に黒い影として確認できます。これは、本来骨があるべき部分が、密度の低い組織に置き換わったためにレントゲンが透過し、黒く写る現象です。つまり、骨が溶けている状態と言えます

歯根嚢胞と思われる歯科用CT写真(治療後の写真は文末に提示)
ここに示した歯科用CT画像は、歯根嚢胞が疑われる状態を表しています。画像から確認できるように、本来骨があるべき歯根の先端部分が、骨とは異なる軟組織に置き換わっています。この軟組織が具体的にどのようなものであるかは、外科的に組織を採取し、顕微鏡による病理検査を行うことで初めて確定診断が得られます。多くの場合、これらの軟組織は肉芽組織か嚢胞性組織のいずれかであると考えられます。
日本口腔病理学会の解説として下記をご覧ください。
しかし、レントゲンで歯根の先に黒い影が見えたからといって、必ずしも治療が必要とは限りません。東京医科歯科大学の須田らの研究によると、日本国内で行われた根管治療の約5割で同様の所見が見られると報告されています。実際の臨床現場においても、レントゲン写真を確認すると、ほぼ同等の割合で黒い影が認められることは珍しくありません。
当院にも、他の歯科医院でレントゲン写真の黒い影を指摘され、抜歯とインプラント治療を勧められた患者様が来院されることがあります。しかし、これらの患者様の多くは無症状であり、他の歯の治療のために撮影したレントゲン写真で偶然発見されたケースです。
このような場合、治療の必要性を指摘されることがありますが、当院では経過観察を推奨することが多くあります。実際、上記のように抜歯を勧められた歯で、15年以上何の問題もなく経過されている患者様もいらっしゃいます。実際には、歯根嚢胞のような疾患ではなく、病理検査をすれば何らかの病名がつくのかもしれません。しかし、治療を開始することにより予期せぬ症状が現れ、患者様を苦しめる可能性もあるため、慎重な経過観察をすることが重要です。
参考症例(下記写真:10年間、根の先の黒い影の様子は無変化。症状も全くありません)
レントゲン写真で歯根の先に黒い影が見られた場合でも、噛めない、痛みがある、歯肉が腫れているなどの症状がなければ、必ずしも治療が必要とは限りません。しかし、症状がある場合は治療の対象となります。
専門的には、この歯根の先の黒い影は根尖病変(根尖性病巣)と呼ばれます。根尖病変があり、かつ症状がある場合の治療は、一般的な歯科医療においては以下の2つの考え方が主流です。
- 大きな根尖病変は外科的な処置で取り除かなければ治癒が難しい。
- 歯根嚢胞は外科的な処置(抜歯または歯根端切除術)が必要である。
そのため、根尖病変のある歯は抜歯を勧められたり、前歯の場合は歯根端切除術が選択されることが多いのが現状です。
しかし、当院で行っているケースルクト法根管治療では、典型的な歯根嚢胞と診断されるレントゲン画像であっても、根管治療のみで治癒するケースが数多く存在します。私たちの研究では、「根尖孔を確実に閉鎖することで、根尖病変の大きさに関わらず、多くの場合治癒が可能である」と考えています。
ただし、根管治療のみで歯根嚢胞が治癒したことを証明することは困難です。なぜなら、術前に組織を採取し病理検査を行う必要があるからです。しかし、術前に組織を採取した場合、その行為自体が治癒に影響を与える可能性を否定できません。したがって、根管治療のみで治癒した場合、厳密には歯根嚢胞であったかどうかは不明なままとなります。
ケースルクト法根管治療で歯根嚢胞を治す場合
歯根嚢胞を有する歯は、前述のように必ず歯髄(神経)を除去する治療を受けています。そのため、一般的には被せ物が装着されており、内部には土台や根管充填材が存在します。したがって、ケースルクト法根管治療を行う際には、これらの3種類の構造物を除去する必要があります。そして、歯根の先端にある根尖孔を確実に閉鎖します。
ケースルクト法根管治療については→こちら
これらの3種類の構造物の除去は非常に難易度が高く、上図①のクラウンと②の土台は、マイクロスコープで拡大しながら慎重に削り取る必要があります。また、③の根管充填材の除去は、極めて細い器具を用いた手作業で行われます。そのため、土台などの状態によっては、除去作業中に歯に過度な負担がかかり、歯の内側から外側へ穿孔してしまうリスクがあります。よって、極めて慎重な作業が要求されます。実際、大臼歯においては、①から③までの確実な除去に、合計で約3時間程度を要します。
しかしながら、日本の健康保険制度における診療報酬では、これほどの時間を要する精密な処置に対して、わずか800円(一部負担金ではありません)という著しく低い報酬しか設定されていません。このような現状では、健康保険制度内で質の高い再根管治療を提供することは、事実上不可能です。したがって、当院で提供するケースルクト法も、自費診療として実施させていただいております。
適切な治療が行われ、予後が良好な場合、症状は速やかに消失し、3ヶ月程度で歯根嚢胞と疑われる病変の縮小、およびレントゲン画像による骨の再生が観察されます。ただし、骨再生のメカニズムは科学的に完全に解明されているわけではありません。
再根管治療にあたり、診査をする項目
- 歯のヒビや歯根破折ではないか(この場合は抜歯の適応です)
- 上記の3種類の構造物の除去が安全にできるかどうか
- 治療後に再度、被せ物なので、歯を再現できる歯の状態なのか
これらの条件を満たした場合、治療の対象になります。現状では、治療をしてから数か月して再度、歯科用CTを撮影をして治療の成否を判定いたします。
症例
これらは、ケースルクト法根管治療は自費による根管治療です。

文頭の症例の4年半後のCT写真です。綺麗に骨まで再生しています。治療回数1回。
多くのメール相談に対応しているため、当院では来院可能な患者様限定で無料メール相談を受け付けております。
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