- 治療について - 歯根嚢胞は切らなくて治る
歯根嚢胞は切らなくて治る
歯根嚢胞は切らなくても治ることも多い
歯根嚢胞(のうほう)は歯の根の先に生じる良性の疾患です。特徴としては、歯髄(俗称:神経)を取った歯のみに生じます。歯髄を取るような治療をしていない歯には絶対に出来ません。つまり染みる様な歯には歯根嚢胞は100%出来ません。
専門的には、根管治療を行った歯に生じます。
その多くは、根管治療の不備で起こります。レントゲン写真を撮ると、根の先に黒い影が見えます。これは本来ならば、根の先の骨があった部分の骨が密度の低い組織に置換してしまった事によりにレントゲンが透過してしまうのです。
上記は歯科用CTによる歯根嚢胞と思われる画像です。
簡単に言うと、根の先の骨が無くなって、骨では無い柔らかい組織になっているのです。この柔らかい組織が何なのかは、外科的にその組織を採集して顕微鏡で見る病理診断をしないと確定診断は出ません。
ただ、その組織はおおよそ、肉芽組織(にくげ組織)か嚢胞様組織の2つの場合が多いです。
日本口腔病理学会の解説として下記をご覧ください。
しかし、このレントゲンで黒い部分が根の先に見えたからと言って、直ちに何か治療が必要とは言えません。東京医科歯科大学の須田らによれば、日本で行われた根管治療の5割程度はこの様な状態であると報告しています。実際、日常の診療でレントゲンを見ていると、ほぼ間違いないと思います。
当院でも、レントゲン写真で根の先の黒い部分(影)を他の歯科医院で指摘されて、抜歯をしてインプラントにしなければならないと言われた患者さんが来院される事があります。その患者さんは全く無症状であり、他の歯の治療の為に撮影したレントゲンに写りこんでいたのです。
この様な場合は、精査の後に、経過観察としている場合が多いです。実際、上記の様な抜歯と言われた歯で、15年以上何ともない患者さんもいらっしゃいます。
参考症例(下記写真:10年間、根の先の黒い影の様子は無変化。症状も全くありません)
実際にこの様なレントゲン写真での根の先の黒い影については、咬めないとか、痛みがあり、周囲の歯肉が腫れているような場合は治療の対象になります。
そして、この根の先の黒い影については、専門的には根尖病変(病巣)と言います。
この根尖病変が有って、しかも症状が有る場合の治療は、歯科界の常識としては、以下の2つが有る様です。
1,大きい根尖病変は外科治療で取り除かないと治らない。
2,歯根嚢胞は外科治療をしないと治らない。(抜歯又は歯根端切除術)
よって、多くの根尖病変の歯は抜歯をされたり、前歯の場合は、歯根端切除と言う根の先を根尖病変ごと取り除く手術をされる場合が多いのです。
しかし、当院で行っているケースルクト法根管治療では、典型的な歯根嚢胞と思われるレントゲン画像の症例でも根管治療のみで治っているケースはたくさんあります。
私どもの研究では「根尖孔を確実に閉鎖すれば、殆どの根尖病変は大きさに拘らず治る場合が多い」と考えています。
ただ、歯根嚢胞は根管治療で治ると証明は出来ないのです。なぜならば、治療する前にその組織を顕微鏡で見て病理診断で組織型を確定する必要があります。その場合、メスを入れて組織の一部を切り取る必要があるからです。この後に根管治療をしても、この前段階の一部を切り取る事が治る事に関係する可能性を否定できないからです。
根管治療で歯根嚢胞を治す場合
歯根嚢胞が存在する歯は前述の様に必ず、神経(歯髄)を除去する治療をしてあります。よって、被せ物がしてあり、その中に土台や根管充填材が入っているのが一般的です。よって3種類の構造物を取り外す必要があります。そして根の先端にある根尖孔をケースルクト法根管治療ににより密閉します。
この3種類の構造物の除去が非常に大変であり、上図の①のクランと②の土台はマイクロスコープを見ながら削り取る必要があります。そして③の根管充填材の除去は、まち針の様な小さい器具を使っての手作業になります。よって、土台などの状態によっては、削り取るのが危険な場合があります。それは削り取る事により、歯の内側から外側に穿孔してしまう事もあり得るからです。なので、土台などの状態によっては治療が出来ないケースもあります。
治療ができた場合には、治療後、予後が良ければ、速やかに症状は消失し、3か月程度で歯根嚢胞と思われる病変の収縮が観察され、レントゲンにより骨が再生してくるのが観察できます。ただ、骨が再生する機序は科学的に解明できている訳ではありません。
再根管治療にあたり、診査をする項目
- 歯のヒビや歯根破折ではないか(この場合は抜歯の適応です)
- 上記の3種類の構造物の除去が安全にできるかどうか
- 治療後に再度、被せ物なので、歯を再現できる歯の状態なのか
これらの条件を満たした場合、治療の対象になります。現状では、治療をしてから数か月して再度、歯科用CTを撮影をして治療の成否を判定いたします。
症例
これらは、ケースルクト法根管治療は自費による根管治療です。
この様な根尖病変の治療に関しては、北は北海道、南は沖縄から患者さんが来院されています。