顎関節症とは
口が大きく開けられない。(一応、臨床的には4cm以下が異常と定義されています。)
口を開けるとき”こきこき”と言う音や”がりがり”という音がする。
口を開ける時に痛みがある。
上記の3つの中のうち1つでも症状があれば、顎関節症といいます。
逆に、レントゲンで骨に異常があったからと言って、上記の症状が無ければ 顎関節症とはいえません。
原因としては、顎の関節に有る関節円板と言う部分が前方にずれてしまう、関節を包む組織に問題がある、関節の骨に問題が有る、顎を支える 筋肉に問題が有るなどの場合があります。
その中でも多いのは、関節円板が前方にズレてしまう場合です。原因として下記のようなことが、考えられます。
就寝中に歯ぎしりや、くいしばりのある人。(これが主だと思います。)
事故やけんか等で顎を打撲した人。
大笑い、大あくび、ほお杖の癖の有る人。
歯がすり減ったり、抜けたりして咬み合わせの下がった人。
どういう人がなるの??
10歳以下はまずなりません。(外傷は除く)
若い女性になぜか多い。
悩み事等のある時に悪化すると言われています。(咬む筋肉の異常収縮を起こす為?)
治療方は??
先ずは、正しい診断を行います。
治療法の一例
音だけの人は様子を見ることが多いです。顎の体操みたいな療法を行なう事も有ります。
夜中にくいしばり、歯ぎしりをしないように、精神安定に心がける。ストレスの除去(悩み事の解決)。体や顎の周囲をリラックスさせる体操も良いです。
突然に口が開かなくなった人は早急に顎関節症の解る歯科医を受診し、開口させてもらってから下の写真の様なスプリントを入れて様子を見ます。現在では、症状等によって入れない場合もあります。症状にあわせて、タイプを使い分けます。(写真下参考)後述する、Ⅰ型の中で筋肉の緊張が長い間続く事により、顔面痛や顎の痛みが長く続く場合は、筋肉の塊を形成している部分への、少量の局所麻酔剤の注入により劇的に効果を発揮する場合があります。
これをトリガーポイント注射と呼びます。薬剤は補助的なもので、実は針による鍼灸の効果と考えられています。
慢性化してしまった(経過の長い人)人や、種々の治療等を行なっても、痛みや開口障害の治らない人は、MRIと言うレントゲン装置で顎関節周囲の状態を詳しく検査する必要があります。
その結果、関節円板と周囲の組織に異常な萎縮や癒着 が認められそうな場合は、顎関節の中に内視鏡を入れて状態を観察するとともに、簡単な手術をする事もあります。
ただ、手術と言っても 関節部を開放して行なう手術は、殆ど行なわず、小さな穴を開けてそこから、内視鏡を入れて行なう手術が主流です。しかし、現在2020年ではその様な手術は殆ど行われなくなりました。
咬み合わせを変えるような、矯正治療や、補綴治療(被せたりする治療)をすることも有ります。(多くはⅣ型)
異常関節の代表例
顎関節症は大きく、ⅠからⅣ迄(ⅢaとⅢb)5種類に分類されています。
最近の論文では、Ⅲbの様な関節円盤の前方転移のある症例の方も含めて、放置しておいても 約70パーセントは症状が無くなってしまうと言う調査結果が有ります。つまり残りの30パーセントの方が治療対象となる訳です。
以下に日本顎関節学会による2001年の分類を解りやすく改変して記します。
Ⅰ型
関節等の動きは良いのに、顎関節症の症状がある場合→咀嚼にかかわる筋肉の過緊張が原因の場合。
Ⅱ型
関節円板は前方転移等はしていないが、関節包や靭帯、の慢性外傷性病変によるもの。痛みが有るのを我慢すれば、大きく開く点が Ⅲ型とは区別される。この場合で長い経過を経ている例では、筋肉を触ってみると、コリコリする部分が有る場合がある。
a:音がして、かぱっと顎の位置が戻るもの。
b:ロックしていて口のあかないもの。
Ⅲ型
関節円板の位置の異常を伴うもの。
>Ⅳ型
骨や軟骨の変化をレントゲンやMRIで認めるもの。多くはⅢbからの移行が多いとされています。この場合、下顎頭に骨皮質の断裂を確認する必要があります。
Ⅴ型
上記に該当しないもの。心因性
Ⅰ型は明らかにストレスと関連してますので、ストレスの原因を除去すると共に、運動をするのも良いかもしれません。
関節洗浄について
スプリントや薬物療法等を2、3ヶ月しても改善しない場合は、MRIで、顎関節の中の状態を調べるレントゲンを撮ってみて関節円板の元にもどらなそうな、前方転位の場合は、関節の中を洗浄することで良くなることが有ります。
方法としては、関節腔に注射針を刺入して、生理的食塩水200mlで洗浄して、その後ベタメサゾン(ステロイドホルモン)を2mg注入する方法では3ヶ月後の有効率(開口量が38ミリ以上、関節疼痛の消失または改善、摂食および日常生活に支障を感じない)は72.7%であったそうです。
ただ、2回やっても効果の無い人は、それ以上同じ事をしても有効ではなかった事とされています。
(参考文献:青山知幸、石川義人、他:関節洗浄マニュピュレーション法の反復施行に対する検討.日口外誌 46:108-110 2000)
上記術式は簡単ですが、MRI等での観察が必要になりますので、一般的には口腔外科で行っています。
現在(2020年)では、殆ど行われていないと思われます。手術をしなくても軽快する場合が多いからです。
クローズドロック(突然、口が開かなくなった)について
口が閉まったままロックして開かない状態を言います。
先ずは、開ける処置(マニュピュレーション)を行なってから、種々の診断と治療を進めます。
クローズドロックが生じやすい人は、以前から口を開閉すると、コリっとこめかみあたりで音がする人です。つまり顎関節の一部で関節円板をこすって音がする状態になっているときに、ストレスによるくいしばり等、更なる力が関節部にかかた場合、関節円板が更にずれてしまい、ひっかかってしまって口が開かなくなるのです。
マニュピュレーションとは、日本語にすると徒手的整復術。読んで字の如く、術者の手の力 によって、関節および、関節円板の位置の整復をはかり、口を開く様にする事です。ファーラー法と言うのが、一般的な方法ですが 、あまり奏功しない場合が多いです。なぜかと言うと、術者が力をかけて、むりやり顎をひっぱるので痛いのと、力がうまくかからないからです。
現在では、日本歯科大学の小出先生の考案した方法が最も良いと思われます。痛みも少なく、今まで、どうしても2センチくらいしか口が開かなかった人が、この方法を試みると、30分後には4センチ以上開く様になる場合が多いです。
突然、口が開かなくなった 場合は、必ずマニュピュレーションを行って、関節円板の位置を元に戻しておく事をお勧めします。2センチ位ですと、食事もつらいですし、放置しておきますと、関節円板を引っ張っている繊維(バイラミナゾーン:2層部)が伸びてしまって元に戻りにくくなってしまうからです。
口が開かなくなって、数週間以内であれば、元に戻せる確率は高いですが、半年以上経過してしまうと、元に戻せる確率は低くなってしまいます。出来るだけお早めに専門医を受診して、口を開けるマニュピュレーションを受けて下さい。
(注:顎関節円板の位置の異常が有るからと言っても、それほど深刻な状況ではございません。半年以上経過した場合は、顎関節円板はその場所に留めておいて、開口する訓練を行います。そうすると、食事や発音に全く問題の無い生活が送れます。)
2005/6/28改訂
2008/6/16改訂
2020/9/7改訂